第17回パートナー会議 ─ セミナー「労災と事業者責任」

(株)インターリスク総研 上席コンサルタント

 

関口 祐輔

 

 休憩をはさみ、関口氏が労働災害を防止するため事業者として実施すべき対策や、発生事例などについて講演を行いました。

■安全の目的

 まず、この図版を見ていただきたいと思います。これは、ある建設業の方でエレベータの立坑に落ちてしまった方の遺書なのです。病院のベッドで瀕死の状況のなかで、「すいません。息子をよろしく。エレベータの操作ミス」と書かれたのです。

 

 なぜ、このような遺書をお見せしたかというと、皆様の会社でこうした遺書が書かれるような事態に陥らないように、そういった環境にしないように、労働災害対策をきちんと立てていただきたいということです。

 安全の目的とは、「働く人がその日に仕事についた身体の状態のままで、その日の仕事を終える」ということで、これは法律で定められた事業者、使用者の義務です。

 

■労働災害の発生状況

 平成25年の統計でみると、労働災害の死者数は1,000人を超え、全国で1日あたり 2.8人の方が亡くなっています。

 死者数が多い業種は建設業、製造業の順で陸上貨物運送事業は3番目に多く、年間100人以上の方が亡くなります。4日以上休業した災害でみると運送業では1万4千人以上という数字です。

 

 労災の中には交通事故も多いのですが、同じぐらいの数が荷役中に発生しています。荷台からの転落や挟まれ事故、フォークリフトの死傷災害が目立っています。

 毎年、プラットフォーム上で作業していてリフトごと転落したり、マストガードに身体を挟まれるといった事故が多発しています。

 

 さらに、こうした重大災害の問題は、現代ではスマホなどからツイッターのようなソーシャルネットワークサービスにアップされ、情報があっという間に世間に広がってしまうということです。その後、新聞やテレビのニュースにも載る可能性があります。

 お客様や将来のドライバー候補といえる若者達も、こうしたネットの情報を見ていて、会社を選ぶのにネット情報を参考にしています。

■事業者の責任と労働者の義務

 災害が発生した場合の事業者の責任は大きくわけて、刑事責任、民事責任、行政処分の3つがあります。
 このうち、刑事責任として労働安全衛生法違反の違反があるとされると、労働基準監督官は特別司法警察員として刑事捜査を実施します。

 また、業務上過失致死などの疑いがあると警察の捜査を受けることもあります。

 運送業界は労働基準監督署が注目する業界の一つと言われています。過重労働が慢性化し、残業代の不払いなどが多く大きな問題とされているからです。

 

 次に民事責任は、労働契約法第5条の違反である「安全配慮義務違反」に問われる可能性があります。労働者が安全に仕事を終えるよう配慮する責任があると申し上げましたが、この責任の不履行に対して損害賠償責任が発生します。

 また交通事故などでは、不法行為の使用者責任としての損害賠償責任も発生します。

 

 最後に行政処分ですが、労働基準監督署の調査によっては、機械設備の使用停止命令や作業停止命令がでることがあります。

 

 なお、事業者・管理監督者として配慮すべきなのは、正規の社員だけとは限りません。最近災害事例が多いのですが、派遣労働者やパート・アルバイト、下請けの従業員、出向者なども安全配慮をすべき対象であることを忘れてはいけないのです。

■過労死などの損害賠償請求が目立つ

 ここで、運送事業に関連した労働災害のなかで、使用者に損害賠償請求が行われた事例を少し紹介したいと思います。

 目立つのは、安全配慮義務違反や過労死に関係する事例が多いことです。

 

 大型トラックの追突事故で運転者が死亡したことに対して、1日の平均拘束時間が13時間を超え、時間外労働が1か月で140時間を超えていたことを指摘し、雇い主が安全配慮義務を怠ったことが原因として8,700万円の支払を命じた判例があります。

 

 私も、コンサルタント業務に就く付く前に運送事業に勤務していた経験があるのでわかるのですが、拘束時間が13時間を超える運転者が実際に多いという現実があります。

 

 また、遺族が所長のパワーハラスメントによる過労死を訴えた案件もあります。パワハラにより精神的な負担が生じて自殺に至ることも、会社の安全配慮義務違反とされます。

■過重労働とメンタルヘルスの問題

 最近は過重労働などとメンタルヘルスの関係も重視されています。

 皆さんご存知のことと思いますが、今年の12月に労働安全衛生法の改正があり、50人以上の事業者では、ストレスチェックが義務化されます。メンタルヘルスケアも非常に重要ということです。

 

 心理的な負担が「強」とされる具体例として、仕事量が極端に増加して時間外労働が増える、1か月以上の連続勤務、部下に対する上司の言動が指導の範囲を逸脱しているなど、様々なことがあげられています

 

 難しいのは指導とパワハラの線引で、セクハラは絶対に許されませんが、パワーとは上司の権限をさす言葉でもありますから、上司が萎縮して必要な指導をしないということがないように配慮する必要があります。

■リスクアセスメントで先取り型の

 予防安全を

 こうした労働災害は、不安全な状態を放置したこと、そしてほとんどは運転者などの不安全行動つまりヒューマンエラーから発生しています。

 その背景には、災害事例にもあったように安全意識が低い・危険感受性が低いということがあげられます。

 そこで、事業者・管理監督者・運転者の危険感受性を高めるためには、災害が起こってから学ぶ後追い型ではなく、リスクを除去し低減する先取り型の対策が重要です。
 その一つとして、リスク・アセスメントという手法があります。リスクの事前評価を行って、危険性・有害性を明らかにすることで、災害に結びつく流れを止めるのです。

 これらが効果を上げるためには、経営者トップの決意、管理者の熱意、そして全員参加による活動推進という三位一体の努力が必要です。どうか、よろしくお願いします。

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