(株)インターリスク総研 上席コンサルタント
治良丸 博英
続いて、治良丸氏が「安全」とはなにか、事故防止のための管理・指導のポイントなどについて講演を行いました。
■安全とは何か
安全運転について考えてみたいと思いますが、そもそも「安全」とはなんでしょうか?
皆さんは「安全」の意味をどうお考えですか?
辞書を引くとこう書いてあります。
「安全とは 危険がなくて安らかなこと」
しかし、そもそも100%安全というものは、存在しません。
そこで、100%の安全にできるだけ近づくのが「安全管理」の役割です。
国土交通省のホームページをみますと、重大事故による行政処分の事例が紹介されています。酒気帯び運転による追突事故を端緒として、監査を受け、運送事業者としての輸送の安全が確保できないとして、事業の許可取消処分を受けています。
■より高い安全指導が求められている
軽井沢のバス転落事故のあと、山陽自動車道ではトラックの悲惨な追突事故も発生しました。今や、プロドライバーに求められる安全運転の基準は非常に厳しいものがあり、事業者への要求も高くなっています。
「貨物自動車運送事業者が運転者に対して行う指導・監督の指針」もこの度、改正されています。
今回の改正では、第1章で一般的な指導項目が11から12項目に増えただけでなく、「交通事故統計を活用して指導する」など、具体的な内容がかなり強調されています。
また、第2章では、初任運転者の講習が今まで6時間だったものが15時間に延長され、実車を使用する。さらに、実際にトラックに乗って行う実技訓練20時間も新設されています。
改正された指針がいつから実施されるか正確な日時は未定ですが、今のうちに準備しておかないと間に合わないということを自覚していただきたいと思います。
■過労運転、飲酒運転などの防止はとくに重要
本日は、指導・監督項目の中からとくに「運転者の生理的・心理的要因」に注目したいと思います。
長時間労働の結果、疲労がかさみ過労運転に陥るケースが少なくありません。
積荷や荷主への配慮もドライバーへの負担となっています。
飲酒運転や運転技能への過信、あせりの心理、興奮状態なども重大事故に結びつく要因です。
■過労を防ぐ労働時間の管理を
トラックドライバーは頻繁な深夜勤務などにより睡眠の質が低下し、心理的なストレスや偏った生活習慣なども影響して、過労状態に陥りやすいのです。
また睡眠時間が5時間未満になると、ヒヤリ・ハット体験が2.3倍になるというデータがあります。
3時間程度の仮眠の連続では、数字上睡眠が取れているようでも、本当の休息にはなっておらず、過労がかさんで事故のリスクが増大しています。
疲労をためない6時間以上の睡眠を取れるように、管理することが大切です。
■点呼の重要性
点呼の目的は、乗務前であれば安全運行が可能かどうかをチェックすることでが、乗務後の帰社ドライバーに道路状況の変化などの情報の報告を受けて共有し、他のドライバーに伝達することも大きな目的です。
アルコールだけでなく健康・精神状態のチェックが重要です。トラックは出庫後30分以内の事故が多いのです。人間の脳がまだ日常のモードのままで、運転モードに切り替えができないまま運転をしてしまうことが多いからです。
日常点検の確認や車検証の搭載、安全運転目標の確認などをしっかりするなかで、「今から安全運転をするんだ」という強い意識を頭に植え付けることが重要です。
また、乗務後点呼でも、安全目標などの実施状況を繰り返し確認することで意識喚起を促します。
■あきらめずにプロ意識の醸成を
目指すことは、安全運転マインドとプロ意識の醸成です。管理者の指導は、的を絞ることと、すぐに成果が出なくても諦めないで継続することが重要です。
小さな事故でも再発防止に尽力するとともに、事故防止はドライバー一人ひとりのためと本気で向き合うことです。
顔色の変化等にも気を配り、温かい声がけをする姿勢を持って下さい。
酒気帯び運転の多くは、事故に至るケースもありますが、前日の酒気が残っているのに気づかないで運転して、一時停止違反などの取り締まりで発覚するケースが多いと言われています。
このような事象で乗務不可とならないように、管理者が粘り強く指導し、「管理のプロ」として「真の社員」を育成するように、努力して下さい。
事故防止、事故削減は管理者次第です。この言葉を締めくくりとさせていただきます。
本日は、ありがとうございました。